朴槿恵政権との500日

加藤達也・前ソウル支局長の手記〜ソウル地裁法廷に充満した異様な空気…検事の手は震えていた

 私は取調室で、朴大統領への「誹謗(ひぼう)の目的」を認めさせようとする検事との応酬の間、高検事の指先の動きがピアノを弾くように滑らかなことに気づいた。小指は反り返らせたまま使わず左右計8本の指で、カタカタとリズミカルに調書を作成する姿はプライドの高い、神経質そうな性格を感じさせた。

 だが、初公判で見たのは全く別の姿だった。起訴事実が記載された文書を持った高検事の手が大きく震えているのだ。私は高検事の震える手を見ながらいろいろなことを思った。

 検事もやはり緊張しているのか。告発した右翼の男らがわめき散らし、40人の立ち見傍聴人まで出た異様な法廷の空気にのまれているのか。それとも、大統領の顔色を見た法務・検察幹部から筋の悪い事件を公判まで背負わされた重圧か-。

 恐らくはその全部だったのだと思う。高検事の震える手は、その後の審理での検察の窮状を象徴する出来事として記憶の底に定着することになった。