慰安婦募集の強制性を認めながら問題解決に結びつかなかった「河野洋平官房長官談話」や、元慰安婦に償い金を支給したアジア女性基金の時とは異なり、今回は国際社会に注視されていたからだ。また、外務省高官も「これまでは韓国側が自分で『最終的』と言ったことはなかった」と前例との違いを強調する。
さらに安倍首相は、28日夕の朴槿恵大統領との電話会談の際にも、両国間の慰安婦問題が今回で「最後」であることを強く確認した。首相は29日、周囲にこう語っている。
「今後、(韓国との関係で)この問題について一切、言わない。次の日韓首脳会談でももう触れない。そのことは電話会談でも言っておいた。昨日をもってすべて終わりだ。もう謝罪もしない」
ただ、こうした第三国も巻き込んだ外交ゲーム的な交渉は、国民の目には分かりにくい。安倍首相による「おわびと反省」や、韓国政府が設立する基金への10億円規模の拠出などは、日本外交の敗北だとも受けとめられた。
「失望した」「愕然とした」「もう信じられない」「何のために首相になったのか」…。
28日に「慰安婦問題で日韓合意」のニュースが流れると、安倍首相のフェイスブックにはたちまち反発するメッセージが書き込まれた。特に、首相のコアな支持層とされる保守層からの批判は激烈だった。
そうした反応を事前に予想しながら、安倍首相が韓国との年内合意に踏み切ったのはなぜか。その答えの一つは、今年8月14日に発表した首相の戦後70年談話の次の一節にある。