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焼け野原から生まれた表現
〈今年8月、NHKの番組で、約70年ぶりに千葉県の九十九里浜を訪れた。海軍兵として沿岸防備に当たり、自身が終戦を迎えた土地だ。そこでのデッサンを基に、一枚の新作影絵を制作。今月刊行した作品集「藤城清治の旅する影絵 日本」(講談社)に収められた〉
戦後70年がたち、歴史のつながりや未来への願いのようなものを、自分で描かなければいけないと思いました。今はのどかな九十九里浜に戻っていたけれども、掩体壕(えんたいごう=戦闘機を空襲から隠すための壕)がいくつか残されていて、すごく懐かしかった。ただ「戦争反対」と叫ぶだけではなく、平和のすばらしさや戦争の悲惨さを、ごく自然に、静かに感じられるような絵を描きたかったんです。
〈完成したのは、浜辺に残された掩体壕跡の上空で、赤とんぼが舞う幻想的な作品だ〉
僕は昔から、写実的なデッサンが好きでした。一方、童話やメルヘンの世界にも興味があって、学生時代から人形劇をやってきた。海軍に入る前、勤労動員のころは、仲間と人形劇の慰問団のようなグループを作り、近くの農村や工場を回っていたこともあります。この絵では、メルヘンの世界に関わってきた自分の夢や思いも表現したかったのです。