父、金日成(キム・イルソン)の死後、金正日(ジョンイル)は3年間も毎日、拳銃を携帯して過ごした。2002年に朝鮮労働党や朝鮮人民軍の幹部らとの懇談で当時をこう振り返った。
「拳銃は、家内(高英姫=コ・ヨンヒ)が、悪い連中が何をしでかすか分からないと、朝晩、私に握らせたものだ」
「悪い連中」とは、日成に忠誠を誓い、警護する1号護衛総局の幹部らを指した。1994年7月8日、日成が急逝した中部、妙香山(ミョヒャンサン)の別荘で、駆けつけた正日に、警護員の一人が発砲する事件が起きた。後に韓国に亡命した元同総局将校の柳京浩(リュ・ギョンホ、仮名)が証言する。「銃撃戦で金正日の警護官の1人が即死し、側近の1人も亡くなった」
事件後、正日は即刻、要人警護を統括する護衛司令部を改編し、1号護衛総局を解体するよう命じた。同時に、軍傘下の保衛局(その後、保衛司令部に昇格)に「10処」と称する部署を新設させ、自らの警護に当たらせた。
「張成沢、あの野郎、ひどいやつだ」
柳京浩によると、「金正日は、金日成に忠誠を誓った人物らを異常に恐れていた」という。最高指導者の突然の死に金正日が関わっているのではないかと勘繰ったのは、1号護衛総局の将校らだけではなかった。最も親しい肉親、妹の金敬姫(ギョンヒ)も兄を疑っていたのだ。