海道東征を紡ぐ 信時潔物語

(2)大阪に生まれ、原点は父・吉岡弘毅の剛と柔

 残されたエピソードからは、どこか一徹で思い立ったら筋を通す、吉岡の人柄が浮かんでくる。

 作家の阪田寛夫が川端康成文学賞を受賞した小説「海道東征」には、吉岡は「元気な頃は困った存在だった。直情径行で、道でいきなり自分の外套を脱いで、寒さにふるえている人に着せてしまう」とある。愛が「一旦思い立った事は矢が楯でもやり通す性分」「父の独立独行の精神は終生を一貫して居った」と書いているのも、そうした吉岡の「剛」の部分だろう。

 一方で末娘の堤ふく子は、足の踏み場もないほど書物に囲まれて過ごしていたと証言している。楽しみといえば、美しい景色を見ること。回想によると「景色のよい所へ来ると神様の御業をほめたたへつつ終日あかず眺めては歌など作って楽しんで居りました」という。ここに、吉岡という人物の教養と信仰、美的感性をも感じられないだろうか。少年、信時潔の原点は、そんな父を中心とする牧師館にあった。 

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