専門医が診る 福岡市立こども病院

(7)ノロウイルス新型流行の兆し、二次感染防止を

 □副院長・青木知信医師

 ノロウイルスは、みなさんの身近に存在するウイルスのひとつです。例年12月から2月ごろの冬に流行し、胃腸炎を引き起こします。激しい嘔吐(おうと)や下痢、発熱などにつながるとても苦しい病気です。

 今季は、遺伝子型が変わった新型が流行するのではないかと、心配されています。これまでは「GII・4」と呼ばれる遺伝子型が主流だったのですが、昨年3月に「GII・17」という型が国内で発見されました。過去の状況をみると、新型が出てきたときは大流行する傾向があります。今年は特に注意が必要です。

 どういうメカニズムで、ノロウイルスがこれだけひどい症状を引き起こすのか。一つの理由は、体の「表面」で起きる病気だからです。

 おなかの中で起きるのに「表面」というと不思議に思うかもしれませんが、考えてみてください。

 人間の体を土管に例えれば、口から食道、胃、腸という消化・吸収器官は、土管の穴のようなものです。ノロウイルスはこの穴を通り、腸管で感染症を起こします。胃酸や胆汁にも負けない強いウイルスだと言えます。

 腸管は穴の「表面」です。表面ではなく、体の内部に入れば免疫が働きますが、体の表面では免疫機構はあまり反応しません。表面の感染であるため、症状が起きるのが早く、さらに、非常にたくさんのウイルスが作られるので、つらい症状につながるのです。

 ノロウイルスは大きな社会問題となります。その理由は3つあります。ひとつは、高齢者を中心に、症状が重くなり、亡くなる人もいることです。

 もうひとつは、患者数の多さ。全国的にインフルエンザに次いで発症者が多いのです。ノロウイルスにはワクチンがないことも、この原因でしょう。

 加えて、ノロウイルスはわれわれの「安全安心」を脅かす問題として認識されています。医療機関や福祉施設など、多くの人が安全と思っている場所で流行することがあります。多くは患者との接触や、物を介した間接的な接触での感染です。

 集団感染が起きれば、管理側の責任も問われます。学校給食が原因となったこともあり、食の安全に関わる問題としても注目されています。

 ノロウイルスの主原因は生ガキといわれます。カキを食べた人間のおなかの中で増えるのです。生ガキがおいしいのは分かりますが、ノロウイルス予防の観点からは、85度以上で1分以上加熱することが望ましいとされています。

 発症した場合、脱水に注意しましょう。水分補給を助ける経口補水液を使うといいでしょう。そして何より、ウイルスを拡散させないことが重要です。

 重要な予防法は手洗いです。ですから、時間をかけて、指の間までしっかりと流水とせっけんで洗いましょう。かかった人はもちろん、患者の世話をした人や、食事をつくる人も同様に、十分な予防が必要です。マスクも有効な対策のひとつです。

 最後に、ノロウイルスの「ノロ」は都市の名前に由来するのをご存じでしょうか。米オハイオ州のノーウォークです。1968年にこの街の小学校で急性胃腸炎が集団発生し、発見されたウイルスが後にノロウイルスと命名されたのです。

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 九州大学医学部付属病院を経て、昭和57年から福岡市立こども病院勤務。感染症科部長を務め、平成11年に副院長に就任し、内科系を担当している。

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