浪速風

百回忌で見直す漱石の功業

夏目漱石は大正5(1916)年12月9日に亡くなった。今日が百回忌である。「坊っちゃん」「吾輩は猫である」などいまだに愛読されるが、再評価のブームが起きると予想する。理由がないわけではない。漱石自身が弟子に宛てた手紙に「功業は百歳の後に価値が定まる」と書いているからだ。

▶「夢十夜」に護国寺の山門で運慶が仁王を彫る場面がある。自在にノミをふるう技に感心していると、見物人の一人が「なに、あの通りの眉や鼻が木の中に埋まっているのを掘り出すまでだ」。家に帰り、嵐で倒れた樫を彫ってみたが、仁王は出てこない-。現代人にも示唆に富む。

▶「草枕」の有名な冒頭の「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」は、いつの時代も変わらぬ人生訓である。「漱石が近代日本語を作った」と言われ、「日本の小説は漱石以前と以後で分かれる」とされる。じっくり読み直してみよう。

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