「ドアが閉まるのが1、2分遅れただけでも離陸の順番が後回しになり20分、30分の遅れにつながるから大変なんです」。運営部長の久林弘樹さん(45)はそう力をこめる。
制約だらけの機内食
「和食、洋食、中華と同じように、『機内食』というカテゴリーがあると思っています」
総料理長の田中大成さん(56)がそう説明すほど機内食は特殊だ。
まず、できたてが出せない。肉や魚は加熱したものを冷蔵庫で一端冷まして保管し、機内での提供直前に再度加熱する。さらに、こぼれるため汁物は難しい。機内は暗いため色が生きない。乾燥して人間の味覚が落ちるため繊細な味は出しづらい。
肉や魚のジューシーさを保ちつつ、殺菌作用を考え、徹底して温度を管理。ステーキの場合は表面温度を63度にするなど国際的な衛生基準まで温度を上げ、その後は余熱で加熱が進まないよう冷却。野菜は鮮やかな色が残るように、一気にゆでて氷水で冷やして色止めする。
和食課長という肩書もある。その冷水健一さん(53)は「世界遺産の登録から和食の人気は高まるばかり。航空会社によっては有名料理人がプロデュースするメニューもあります。刺し身は昆布締めにしたり表面をあぶってタタキにして時間がたっても生臭さが出ないようにしたり、工夫はたくさんしています」と語る。
アレルギーにも対応
多種類というのも今の傾向だ。かつてはファースト、ビジネス、エコノミーの各クラスで、メーンが肉と魚で違う計6種類程度だったものが、今では、イスラム教徒向けのハラル食、ベジタリアン用、低脂肪食、アレルギー食など1機で20、30種類はあるという。