キラリ甲信越

ニシキゴイ産地の長岡・小千谷

 ■「泳ぐ宝石」世界展開へ本腰

 「泳ぐ宝石」と呼ばれる国産のニシキゴイに海外から熱い視線が注がれる中、ニシキゴイの一大産地がある長岡、小千谷の両市で輸出拡大に向けた取り組みが活発化している。日本貿易振興機構・新潟貿易情報センター(ジェトロ新潟)が長岡市や同市錦鯉養殖組合と協力して外国人バイヤーを招聘(しょうへい)し、商談後までを支援するとともに、両市の産地もタッグを組んで世界展開を見据えたプロモーション戦略づくりなどに乗り出した。(臼井慎太郎)

                   ◇

 ◆海外からバイヤー

 10月、長岡市の山古志支所前がブルーシート製の丸い水槽で埋め尽くされた。62回を数える同市錦鯉品評会に出品されたのは、地元で養殖された約440匹のニシキゴイ。集まった国内外の愛好家やバイヤーらが、美しさを競い合う色とりどりのコイを熱心に眺めたり写真に収めたりした。

 ジェトロ新潟は、農林水産物や食品の輸出を後押しするジェトロの「一県一支援プロジェクト」の一環として、長岡市などの販路拡大を支援し、4月には中東ドバイへの初輸出が実現。同市での今回の品評会にはアジアのバイヤーを招いた。そのうちの一社が、ベトナムでニシキゴイを養殖・販売するハイタンコイファームだ。

 同社のレー・フォー・ヨン社長は「長岡の天候、水、土はニシキゴイの養殖に理想的な環境。良いビジネスパートナーを見つけ、協力し自国のコイ市場を拡大したい」と話した。

 ◆産地間競争の波

 富裕層を中心に欧米やアジアでニシキゴイの人気が高まっており、財務省の貿易統計などによると、観賞用魚の輸出額は増加傾向にある。平成26年の実績は32億円で、県によると新潟はこのうち5割超の18億円(前年比約13%増)。養鯉業者数も25年の推計で県は約320と、全国(約590)の半数以上を占める。

 いまや県の養鯉(ようり)業者は生産高の7、8割が輸出向けとなっており、海外事業が経営の柱となっている。ただ、先行きを楽観視はしていない。広島県や九州の産地が攻勢を強めている上、飼育技術を学んだ中国などのアジア勢が低価格を武器に追い上げつつあるからだ。

 長岡市錦鯉養殖組合の星野正晴理事長は、「新潟の強みは生産者が多く多品種で顧客の選択肢が広いこと」と自負する一方で「優秀な品質のニシキゴイをつくるのはもちろん、コストとブランドの競争力を高めないと戦えない」と、海外勢との競合に気を引き締める。

 ジェトロ新潟の小野澤麻衣所長も「日本庭園とセットにしてニシキゴイを売り込む方法もあるのではないか」と、産地の提案力の向上を課題に挙げる。

 ◆産地で協議会設立

 こうした中で長岡、小千谷両市は10月、ニシキゴイ産業の振興で連携した。ニシキゴイの生産関係者や観光協会などとつくる「長岡・小千谷『錦鯉発祥の地』活性化推進協議会」を設立したのだ。

 ニシキゴイは膨大な稚魚の中から選抜を繰り返し、模様や体形に優れた魚に絞り込むなど、飼育に多くの時間と手間がかかる。輸出時には、コイヘルペスウイルス症などの検査に合格した衛生証明書が欠かせない。ニシキゴイを袋に入れて空港まで運び、現地に届けるまで気を抜けない。

 協議会では輸出環境の整備を進めるほか、品質確保やコスト低減をめぐる検討課題もリストアップ。国連食糧農業機関の世界農業遺産や国の日本遺産の認定なども目指し、ニシキゴイ文化の価値と発信力の向上につなげたい考えだ。

 県が検査費の一部補助などで既に支援しているほか、北越銀行はニシキゴイを担保にして養鯉業者に資金を貸し出す「動産担保融資(ABL)」の実績拡大を目指す。官民一丸で「世界を泳ぐ宝石」に育てる挑戦はこれからが本番だ。

会員限定記事会員サービス詳細