産経抄

介護問題「解決には命を絶つしか…」そこまで追い詰められた人を救い出すことが急務だ 11月25日

 〈失明の吾(われ)の手足はまだ動く寝たきりの妻の介護支える〉。NHKは平成18年から、介護をテーマにした短歌を募集し、そのなかから「介護百人一首」を選んで、番組で紹介している。

 ▼昨年度は、過去最高の1万3497首の応募があった。冒頭の作品は、そのなかの一首である。『介護百人一首』(NHK出版)によると、介護短歌を広めたのは、京都の歌人、安森敏隆(としたか)さんと妻の淑子(としこ)さんだった。

 ▼安森さん一家は、淑子さんの母親を8年に及ぶ介護の末に看取(みと)っている。認知症が進んだ母親は、夜中に突然起き出して、徘徊(はいかい)しようとする。〈おかあさんお母さんと我を呼び赤子のごとくなりゆく老母(はは)は〉。疲れ果て眠れぬ夜が続いた淑子さんは、母親の姿を短歌に詠むことで、冷静に現実と向き合うことができるようになった。介護短歌には、心の「浄化作用がある」と安森さんは言う。

 ▼もっとも、壮絶な現場は、介護をする人、される人から、短歌を詠むような心の余裕さえ奪ってしまう。埼玉県熊谷市の利根川で起きた事件は、そんな悲しい現実を社会に突きつけている。深谷市内に住む47歳の女性は、一緒に川に入った父親(74)の自殺を幇助(ほうじょ)し、母親(81)を水死させた容疑で逮捕された。

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