「西洋の音楽家の感性には追いつけない」と悩んだことも。そんなとき「日本人であることを意識し、その感性で表現すると、ヨーロッパでも新しい創造として受け入れられた」と振り返る。だからこそ信時の感性に強くひかれるという。
北原さんは、平成20年から宮内庁楽部で指揮者を務める。宮中晩餐(ばんさん)会などで雅楽を編曲したオーケストラ作品を指揮する機会も多い。楽部の楽師は明治以降、雅楽を演奏しながら西洋音楽を率先して学び、宮中での演奏に取り入れた、いわば日本西洋音楽史の起点に立つ人たちだ。
北原さんは「楽師、そして信時先生らの歩みの上に現代の私たちの音楽がある。先人の業績を受け継ぎ、伝えることが使命だと思います」。「海道東征」を振り終え、決意を新たにしている。(安田奈緒美)