キラリ甲信越

小布施にぎわすスラックライン

 ■舞台は1000年の歴史刻む寺

 「栗と北斎と花のまち」小布施町で盛り上がる「スラックライン」という新しいスポーツがある。綱渡りとトランポリンを組み合わせた競技で、日本に入ってきたのはわずか6年ほど前だが、町内では全国大会が開かれたり、学校の授業で取り入れられたりするなど、急速な広がりをみせている。今年の夏には町から世界レベルの選手を輩出し、「OBUSE」の名を海外に知らしめた。 (三宅真太郎)

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 幅5センチのナイロン製ロープ「ライン」の上で勢いよくジャンプすると、約4メートルの高さまで上がり、宙返りして再びロープの上に着地する。「人間離れの妙技」とも言いたくなるが、ロープから下りて駆け寄ってきたのは、顔にあどけなさが残る男子高校生だった。今年7月にドイツで開かれたスラックラインのワールドカップ(W杯)に日本代表として出場し、ベスト8の好成績を残した中野立志館高校(中野市)の1年、木下晴稀さん(15)だ。

 競技の魅力を尋ねると「ラインの上で飛ぶと、普段とは違う景色を見ることができることです」と目を輝かせる。

 練習の舞台は、1千年以上の歴史があるという浄光寺(小布施町)の境内。新種のスポーツと由緒ある寺院とは意外な取り合わせだが、ここは競技関係者から「世界有数の規模」と評される「スラックラインパーク」なのだ。

 木下さんの周りには地元の中学生や小学生が集まり、互いに技を披露し合いながら和気藹々(あいあい)と練習に取り組んでいた。

 スラックラインパークを整備した同寺副住職の林映寿さん(39)は、「人々が交流して学び合える場所というのが、本来のお寺の役割なんです」と力を込めて語った。

 大学卒業後、副住職になってから、寺の閑散とした雰囲気に衝撃を受けた。

 「人が自然と集まって来るようような楽しいお寺にしたい」

 そう思い立ち、「ピザ作り」や「竹細工体験」「筆遊び」などのイベントを催して試行錯誤を続けた。その取り組みの一環で「年齢や性別を問わずに楽しめそうだから」と、平成25年5月にスラックラインパークを開設した。

 当時、マイナーだった競技を周知させるために、町内の保育園や幼稚園に道具を寄贈した。子供たちに意欲的にライン上に立ってもらおうと、独自の検定制度を設けたら次第に境内がにぎわってきた。

 現在では、町内の小学校でも体育の授業にスラックラインが登場するようになり、中学校にも道具が設置された。かくして「小布施町の子供なら一回はやったことがある」という、小布施ではメジャーなスポーツになったのだ。2年連続で同町を会場に開かれた全国大会には今年、14人の地元選手が出場した。

 「スラックラインのまち」としての小布施町の認知度が高まり、町内外の愛好者約70人でつくる「小布施スラックライン部」が全国各地で出前の体験会を開催し、パフォーマンスを披露するに至った。大学で授業を行うこともあるという。

 日本スラックライン連盟によれば、競技の発祥はドイツで、平成21年ごろに日本に輸入された。現在、国内の競技人口は4万人を超えるという。

 小布施町が生んだ世界レベルの選手、木下さんは次の夢として掲げる「W杯優勝」を目標に日々、浄光寺に通っている。

 「町の皆が応援してくれるのがとてもうれしい。小布施で生まれた選手として世界で戦えるアスリートになりたい」

 木下さんはそう意気込みを語った。

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【用語解説】スラックライン

 幅5センチのナイロン製ロープ「ライン」の上で、宙返りなどを披露して技の完成度を競うスポーツ。ライン上を歩くだけでも集中力やバランス感覚を鍛えることができるとして、幅広い世代に人気だ。浄光寺境内の「スラックラインパーク」には18本、長さ5~70メートルのロープ(ライン)が常設されている。ビニールハウスでつくった屋内練習場やナイター設備もある。

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