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私たちはよく「彼女は個性的な性格だ」とか「彼はライオンのように勇猛果敢だ」と人の性格を評する。それほど脳の働き方は人それぞれ違うのであるが、勇猛果敢な彼の脳が本当にライオンの脳と同じであったりすることは決してない。
言い換えると、脳の成り立ちや働きの大枠は遺伝的に決定されているのである。このことは、よく「脳の設計図はゲノム上に書き込まれている」とも表現される。その設計図は何を決めているのであろう?
いろいろな動物の脳のでき方を見てみると、確かに動物の脳はそれぞれに特徴的である。同じほ乳類に限ってみても、実験動物としてよく使われるハツカネズミとサルのような霊長類では、ずいぶん脳のサイズや複雑さが異なり、サルの脳の神経の数はネズミの千倍以上ある。
進化の上で近いとされるチンパンジーとヒトとでもずいぶんサイズが違う。こういう観察から、脳のサイズ、つまり脳の神経細胞の数は大まかに言って遺伝的に決まっていることがわかる。
一方、よく見ると、ほ乳類の脳は互いに似ているところも多い。もっと広く見渡すと、遺伝学研究に長年使われてきた昆虫のショウジョウバエの脳の発生ですら、ほ乳類と共通するところがある。その共通点とは?
それは、どの脳も、神経幹細胞という細胞からできることである。
神経幹細胞は何度も細胞分裂することによって、たくさんの神経細胞を作り出す「幹」となる細胞である。この幹細胞は2つに分裂するとき、ひとつは元の細胞と同じ幹細胞に、他方は神経細胞に分化してゆく。このように、神経幹細胞は非対称な細胞分裂によって互いに異なる細胞を生じるのである。