「首領さまの言う通りにしろ」
正日があっさり主張を引っ込めたのには、わけがあった。当時、総力を尽くしてソウル五輪の妨害工作を進めており、首脳の招請がソ連の参加阻止につながるかもしれないと下心を抱いたからだ。
「言葉自体古すぎる」「五輪は算数ではない」
ゴルバチョフによると、ソ連への北朝鮮の働きかけは執拗(しつよう)だった。86年10月24日には、金日成が専用機でモスクワを訪問。めったに飛行機に乗らない最高指導者の空路訪問は「緊急事案に違いない」と海外から臆測を呼んだ。
ソ連国営のタス通信は「両首脳は米韓日の三角同盟に反対した」と報じた。しかし、後にゴルバチョフが韓国メディアに語ったところでは、実際は、こんなやり取りもあったという。
日成「ソウル五輪に参加しないでください。朝鮮半島の分断を固定化させようとする『国際帝国主義』の陰謀であります」
ゴルバチョフ「その言葉自体、古すぎます。われわれは、古めかしい教条主義の殻を破り、ペレストロイカを始めているのです。あなたが考えを改めるべきではないか」