鑑賞眼

東宝「放浪記」…仲間由紀恵演じる弾んだ芙美子像に「土臭さ」が欲しい

森光子の当たり役だった「放浪記」の林芙美子を新たに演じる仲間由紀恵(東宝提供)
森光子の当たり役だった「放浪記」の林芙美子を新たに演じる仲間由紀恵(東宝提供)

亡き森光子の代名詞だった舞台の6年ぶりの再演。作家、林芙美子が書いた不遇の半生は、これを舞台化した菊田一夫の姿でもあり、森とも重なった。苦労人同士で作り上げた庶民の哀歓漂う作品を、昭和の観客は肌感覚で共有できただろう。平成の今、東宝がオリジナルの名作を古典として次代に引き継ぐ姿勢を評価したい。三木のり平潤色、北村文典演出。

今回、森と親交のあった仲間由紀恵が芙美子役を引き継いだ。出演者が大幅に若返った分、生活苦を強烈な自意識と生命力ではね返す弾んだ芙美子像になった。森のでんぐり返しで有名になった「放浪記」出版決定の場面では、仲間は側転まで見せ、体当たりの熱演を見せる。

ただ、仲間の美貌(びぼう)と琉球舞踊で培った所作の美しさは、こと芙美子役においては意識的に消す作業が必要だ。特に3幕、故郷・尾道の場面は、貧しい行商人一家に、芙美子がかつてのわが身を重ねる大事なシーン。しかし、仲間の訪問着のような衣装と、立ち居振る舞いの美しさは周囲から浮く。母役の立石涼子が、尾道の海や土を感じる良い味わいを出しているだけに演出にも問題がある。

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