理研CDBが語る

神戸マラソンと小さなランナーたち

【理研CDBが語る】神戸マラソンと小さなランナーたち
【理研CDBが語る】神戸マラソンと小さなランナーたち
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 15日はいよいよ神戸マラソンである。筆者は専ら応援側であるのだが、普通とはちょっと違う視点から、このイベントを毎年心待ちにしている。

 あるマラソンの実況で、「2万人以上のランナーが、スタートの号砲とともに一斉に走りだしました」という表現を耳にした。果たして、これは事実なのだろうか。某都内マラソン大会では、最後尾のランナーが走りはじめるのに15分以上かかることもあるらしい。つまり、全員が同時に走りだすには、マスゲームのように全員を同調させ、動きを同期させるほか仕方がないだろう。しかし、もはやこれはマラソンではない。

 さて、筆者がこんなポイントに注目しているのは、決して実況の揚げ足をとりたいからではない。筆者は研究の中で、「ランナーが一斉に走りだしました」の言葉通りの現象を、生き物の中で目の当たりにしたのだ。

 もちろん、この場合の「ランナー」は「細胞」である。少し補足を加えると、筆者の研究対象であるショウジョウバエのさなぎの中では、ある臓器を正しく作るために、500個以上の細胞が一斉に、時計回りに移動する。

 よくよく観察すると、この細胞たちはおのおのが個性的な動きをしているにもかかわらず、同じ方向に動きだしていた。筆者はこの「小さなランナーたち」がどうやったら「一斉に同じ方向に」動けるのか、研究している。内容を簡単に紹介すると、細胞たちは互いに手をつないでいるが、満員電車に揺られるような動きが加わると、楽なほうへ手をつなぎ変えて移動する。これを繰り返していると、細胞はいつのまにか皆、同じ方向に向かって動いている。

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