「市民の方々に知る機会を提供するのも市立図書館の使命。『猶予を』と言われても…」。東京都武蔵野市の市立中央図書館。今後、新刊の貸し出し猶予を要請されたら? そう水を向けると、養田重忠館長は困惑した表情を浮かべた。
又吉直樹さんの『火花』に、西加奈子さんの『サラバ!』。1階カウンター付近に掲示された予約ランキングには文学賞を受賞したベストセラーが並ぶ。約970件の予約が入った『火花』は市内3つの市立図書館で計30冊を所有。それでも2年待ちで「もっと早く読みたい」との要望が届く。
武蔵野市立図書館では、資料収集方針に明記された〈市民の要求を最重要の要素として考える〉との一文に沿って、予約が20件に達した蔵書は追加で1冊を購入。その後はおおむね予約が5件増えるたびに1冊ずつ買い増し、最大で30冊まで購入する。
厳しい懐事情も複本を後押しする。回転率のいい文芸書が貢献し、年間貸し出し冊数は昨年度までの5年で約20%増えた。自治体の財政緊縮策で全国的に削減が進む図書購入費は同じ5年間で約6%の減少にとどまった。堅調な貸し出しが評価されたのも大きいと養田館長はみる。「目に見える実績で評価を得ないと、辞典や専門書など必要な高額資料を買う予算を確保できない現実がある」
どうすみ分け
図書館を「無料貸本屋」と批判する声は以前から根強く、15年には出版社側と図書館側が共同で貸し出しの実態調査を発表した経緯がある。だが具体的な指針は示されず、その後も論争が繰り返されてきた。23年に作家の樋口毅宏さんが自著に半年間の貸し出し猶予を要望する文章を掲載し、地方の図書館が応じたこともある。