理研CDBが語る

想定外の発見が生まれるとき…細胞のささやきに耳を傾ける

 すると、想像もできなかった研究結果が導かれた。実は、名もない細胞は立(りつ)毛(もう)筋の元となる未成熟な細胞で、毛包幹細胞がネフロネクチンを分泌していたのは、隣にいる未成熟な細胞を立毛筋に成熟させ、さらに毛包に接続して鳥肌(立毛)を作れるようにするためだったのだ。

 これには多くの研究者が驚いた。当時、幹細胞は周囲の環境からシグナルを「受けて」分裂し、新たな細胞を生み出すことが仕事と考えられていたが、幹細胞自身がシグナルの「送り手」にもなって、発生過程が全く不明だった立毛筋に環境を与えていたのである。

 この想定外の発見はどのようにして生まれたのだろうか? 間違った仮説、眠れぬ夜、仮説の棄却と再構築、そして名もない細胞の声に従った私。一見ネガティブ要素のオンパレードのように見えるが、振り返ると、このどれが欠けても想定外の発見はなかったと思う。仮説と違った結果がでたときが新しい発見のチャンス。幸運をつかむ準備はできているか?

 藤原裕展(ふじわら・ひろのぶ) 大阪大大学院修了後、科学技術振興機構、イギリスがん研究所の博士研究員を経て、平成24年から理研CDB細胞外環境研究チーム・チームリーダー。大学院時代より、研究手法を変えながらも一貫して細胞の外に広がる世界を見続ける。研究者として生きていくのは大変だけど、それ以上に創造的で刺激的な科学の世界に身を置けることに幸せを感じる。39歳。