理研CDBが語る

想定外の発見が生まれるとき…細胞のささやきに耳を傾ける

【理研CDBが語る】想定外の発見が生まれるとき…細胞のささやきに耳を傾ける
【理研CDBが語る】想定外の発見が生まれるとき…細胞のささやきに耳を傾ける
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 研究は思い通りには進まない。日々、試行錯誤の連続で、失敗も幾度となく経験する。だから、失敗の理由を追求しつつも、次はうまくいくだろうという楽観的な考えがないと精神的に参ってしまう。

 とは言うものの、眠りに落ちる直前まで、そして目覚めた直後から、失敗した理由が気になる自分がいる。寝ている間も、脳ミソの片隅で無意識に研究のことを考えているのだろう。

 それでも時折、神様がご褒美を与えてくれる。時には自分の思惑とは全く違った形で。

 私は、高い分裂能力によって体に細胞を供給している「幹細胞」に注目している。特に、幹細胞の周囲には「幹細胞専用の環境」があり、そのおかげで幹細胞の性質が維持されていると考えている。

 その仮説を検証するため、毛を作る器官「毛(もう)包(ほう)」の幹細胞の研究を8年前に始めた。そして幹細胞が「ネフロネクチン」と呼ばれるタンパク質を分泌し、自身を包む特殊な環境を作っていることを見いだした。ここまでは思惑通りだ。

 しかし、ネフロネクチンが幹細胞に直接作用しているというデータは得られなかった。正直困った。一体このタンパク質は幹細胞の周りで何をしているのか?

 もんもんとする中、代わりにと言ってはなんだが、毛包ができる際に幹細胞の隣にいる名もない細胞が、ネフロネクチンに接着していることに気付いた。「なんだ、このえたいの知れない細胞は?」。幹細胞とは関係がないので無視しようかとも思ったが、その名もない細胞が「私に付いてきなさい」とささやくのである。元の仮説をいったん横に置いて、その細胞に付いていくことにした。

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