だが今の日本では餅は餅屋式の専門分化の考えが邪魔立てし、一人の教師が『源氏』の原文も英訳も教えるなどできない相談と思いこんでいる。ハーンの英語怪談の日本語原拠を調べることすら英文学の専門の枠外だと思っていたのだ。専門白痴は困ったものだ。これから先は、主専攻とともに副専攻を自覚させることが肝心だ。
しかし安倍晋三首相の70年談話なら一人の教師で原文も英訳も教えることはできるだろう。丁寧に読めば問題点もある。事変、侵略、戦争について日本語では主語が不特定多数だが、英文では主語はわれわれ日本で「二度と武力の威嚇はしない」と誓うのだから日本は侵略したと読める、などと指摘する人も出てこよう。そうした文法的・歴史的かつ政治的問題を学生と議論することこそ大切だ。
(ひらかわ すけひろ)