月刊正論

ヘイトスピーチ規制法案の危険性は人権擁護法案より凄まじい! 八木秀次(麗澤大教授)

 「ヘイトスピーチはよくない」というのは党派を超えた認識だろう。特に在日コリアンが多数生活する東京・新大久保や大阪・鶴橋等において、「朝鮮人首吊レ 毒飲メ 飛ビ降リロ」「良い韓国人も悪い韓国人もみんな殺せ」「ガス室に朝鮮人、韓国人を叩き込め」等のプラカードを掲げ、「いつまでも調子に乗っとったら、南京大虐殺じゃなくて、鶴橋大虐殺を実行しますよ」と怒鳴り、その模様をインターネットの動画等で流布させることには憂慮の念をもって見ている人がほとんどだ。

 だが、「朝鮮人を皆殺しにしろ」といった個人を特定しない言動について現行法では、民法上の不法行為による損害賠償や刑法上の名誉棄損罪・侮辱罪は成立しない。平成21年に京都朝鮮第一初級学校の門前において拡声器で行った「ここは北朝鮮のスパイ養成機関」「朝鮮人を保健所で処分しろ」等の言動は、威力業務妨害罪や侮辱罪で有罪判決を受け、民事訴訟においても最高裁で千二百万円の損害賠償の判決が確定したが、これは一定範囲の人々(「この学校」「この店」)を対象として畏怖を生じさせ、業務を妨害したことによるものであって、韓国人・朝鮮人という民族一般に対するヘイトスピーチを違法行為とすることは現行法では難しい。とりわけ刑事罰を科すことについては憲法の保障する表現の自由との関係で慎重論が支配的だ。

会員限定記事会員サービス詳細