「オレはいつ役所を辞めたってやっていける!」。周囲にそう豪語していた異能のノンキャリアが役所の代りに頼りにしていたのは、業者からの賄賂という副収入だった。マイナンバー絡みの事業をめぐる汚職事件で、厚生労働省の官僚が逮捕。捜査の過程で浮かび上がったのは、身なりから言動、仕事までなにもかもが規格外のアウトロー官僚の姿だった。
■「厚労省で一番の専門家」 転落した業界の有名人
「この略語の意味、分かりますか?」
平成20年10月、横浜市内で開かれた日本臨床検査自動化学会の研究会。スクリーンに次々と聞き慣れない略語が映し出された。
「YM=やる気満々、超SBS=超スーパー・ビューティフル・セクシーな女の子…」
「分かる人にはわかるが、おじさんには分からない」。満場の関心を惹いた上で、演壇の男は、医療情報の標準化の必要性について、さまざまな具体例を取り入れながら、専門的な話をかみ砕いて語り始めた。
この男こそ、当時、厚労省社会保障担当参事官室にいた中安容疑者。時には髪を逆立て、時には長髪を後ろに結び、黒や赤の派手なシャツで着飾ったスタイルで熱弁を振るう医療の情報化の専門家として、業界は知らぬ者はいなかった。