鑑賞眼

一方的な求愛、追いかけ回される〝ホラー〟 新国立劇場でミュージカル「パッション」上演

日本初演の「パッション」に主演する井上芳雄(左)とシルビア・グラブ(谷古宇正彦撮影)
日本初演の「パッション」に主演する井上芳雄(左)とシルビア・グラブ(谷古宇正彦撮影)

病弱かつ不細工な女性から一方的に求愛され、拒んでもしつこく追いかけ回されたら、それはホラーであろう。通常、「情熱」と訳されるpassionだが、原義の「受難」を想起させるサスペンスタッチのミュージカル。本来の美しさを殺し、ストーカー的醜女になりきったシルビア・グラブが震撼(しんかん)を覚えるほど恐ろしく、哀れで切なく、そして素晴らしい。

イタリア映画をミュージカル化し、「ウエストサイド物語」の作詞などで知られるソンドハイムが作詞作曲を手掛けた作品。1994年にブロードウェーで初演され、トニー賞4部門を受賞した舞台の日本初演。宮田慶子演出。

19世紀、イタリア・ミラノで、人妻のクララ(和音美桜(かずねみおう))との逢瀬に浸るジョルジオ(井上芳雄)。だが、転勤先で出会った上官のいとこ、フォスカ(グラブ)に一目ぼれされ、常軌を逸した執着に悩まされる。不協和音や変拍子を繰り返す楽曲が緊迫感を高め、闇を基調とした舞台で効果的に使われる照明が、不安定な男女関係を浮き彫りにする。

抑圧された世界に生きる3人の、それぞれの愛の形。フォスカのいちずさは、グラブの熱演もあって感動的ですらあるが、幕切れのジョルジオの変心は非現実的で、物語の展開は好みが分かれるだろう。

主演3人は、ミュージカルではおなじみの実力派。難曲を歌いこなし、癖の強い人物を演じきる。毛色の変わったミュージカルだが、公共劇場があえて翻訳上演する作品なのかは疑問。11月8日まで、東京・渋谷の新国立劇場。(飯塚友子)

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