ミャンマー政府と少数民族武装勢力による停戦合意の署名は、「積極的平和主義」の下、日本が紛争解決に直接関与した成果を国際社会に示す機会となった。その取り組みを支えたのがミャンマー国民和解日本政府代表を務める日本財団の笹川陽平会長(76)。1948年の独立以降、敵対してきたミャンマー政府、各少数民族双方と信頼関係を構築し、和平プロセスの要の存在となっている。15日の署名式典には国際社会からの証人として署名した。
「日本が主導権を持ってアジアの問題を解決する成功例を作りたい」
笹川氏は和平実現への決意をこう語る。決意の強さは、この3年間で政権側と少数民族との対話のため、現地を50回以上訪問したことからも分かる。
日本財団はミャンマーで78年から紛争被害支援として食料、医薬品の配布を実施。日本政府はミャンマー政府だけでなく少数民族にもパイプを持つ笹川氏を2012年にミャンマー少数民族福祉向上大使、翌年には国民和解担当日本政府代表に任命した。
笹川氏によると、少数民族側にとって、この約70年間は国軍からの攻撃と停戦の繰り返しで「裏切られ続けた歴史」だった。政府・国軍への不信は強く、状況も少数民族ごとに異なる。笹川氏は各勢力と会う回数を重ねた。紛争解決には当事者間の「信頼醸成が最重要」として、最大の仕事を「対話の場の設定」と位置づけた。双方が会う機会を増やすことに努め、交渉が暗礁に乗り上げれば笹川氏が動いて再開につなげた。
日本政府は昨年1月、5年間で100億円の支援を発表し、和平プロセスを後押しする。停戦地域では日本側の支援で復興が加速する。外務省関係者は「民間との連携が非常にうまくいっている」と評価する。
今回、全面停戦とはならなかったが笹川氏は悲観していない。「停戦したところから状況がよくなっていく。停戦していない勢力では『早く署名を』となる。これが私流の和平のやり方」と話した。(田北真樹子)