佐賀にタイ人が熱視線 映画ロケ火付け 地味県返上、海外にアピール - 産経ニュース

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佐賀にタイ人が熱視線 映画ロケ火付け 地味県返上、海外にアピール

祐徳稲荷神社でフォトウエディングの撮影をするタイ人カップル=佐賀県鹿島市
祐徳稲荷神社でフォトウエディングの撮影をするタイ人カップル=佐賀県鹿島市

 映画ロケをきっかけに、佐賀を訪れるタイ人が急増している。玄界灘に面した岬や神社、漁港など、地域住民が「こんなところに?」と思う場所にも、タイからの観光客が押し寄せる。国内の「一生行くことはなさそうな都道府県」ランキングで無念の1位となった佐賀が、東南アジア・タイでブームを起こしている。 

 紋付きはかま、色打ち掛けに身を包み、笑顔で見つめ合うカップル。今月6日、タイの人気俳優、サンランユー・プランチャーキットさん(32)が11月に挙式する婚約者と、佐賀県鹿島市の祐徳稲荷神社で、写真を撮影した。

 挙式前に、国内外の好きなスポットで婚礼写真を撮る「フォトウエディング」だ。タイでも人気が浸透しているという。

 撮影は佐賀市で古民家を活用した写真館を営む「ハレノヒ」の笠原徹社長が担当した。2人は3泊4日の日程で、波戸岬や佐賀市内の古民家などを訪れた。

 「佐賀牛がとてもおいしく、小さな町で人の温かさにも触れた。落ち着いた雰囲気など、全てがすてきだった」。2人は旅行の感想をこう語った。なぜ記念の地に佐賀を選んだのか。サンランユーさんは「日本はタイ人にとってあこがれの国。それに映画の影響があります」と説明した。

 昨年2月、唐津市や祐徳稲荷神社などでロケが行われた映画「タイムライン」が、タイで公開された。思いを寄せる女性の面影を探して佐賀を旅する男性が描かれ、呼子漁港や神社など映画で目にする佐賀の風景は、タイの人々に強い印象を残した。

 映画をきっかけに、タイから佐賀への観光客が増えた。この波に乗ろうと、笠原氏は、タイの結婚情報サイト運営会社と連携し、フォトウエディングの誘致を企画した。サンランユーさんらを1組目として、11月に本格的にスタートする。

 佐賀県観光戦略グループによると、佐賀のタイ人宿泊客は、映画が公開された平成26年に1540人と、前年(370人)の4倍に急増した。今年も、6月までの半年間で、すでにタイ人1480人が佐賀で宿泊した。すべての外国人観光客に占める割合はまだ1割以下だが、今後も増加が見込めるという。

 「タイムライン」の誘致は、佐賀県フィルムコミッション(FC)が働きかけた。中国や韓国などを対象に活動してきたが、反日運動の高まりなど、環境が激変することもあった。「中国や韓国だけに頼らない戦略が必要となった」(担当者)ことから、東南アジアに活動の場を広げた。

 特に、親日国であり、隣県・福岡との直行便があるタイに着目した。25年7月にタイからのビザ発給要件が緩和されたことも追い風となった。

 佐賀県FCは「佐賀には日本の原風景が残っている」と、現地の映画監督らに売り込みをかけた。結果、「タイムライン」を含む映画、ドラマのロケ3本の誘致に成功した。

 タイではスマートフォン向けの無料通信アプリ「LINE(ライン)」でドラマを見る若者も多い。こうした若い世代は、「恋人の聖地」として知られる波戸岬や、呼子のイカ料理店にも訪れるようになった。

 映画が観光に火を付けたケースは数多くある。例えば、2008年に中国で公開された「狙った恋の落とし方」(中国の原題は「非誠勿擾」)は、北海道の釧路や網走がロケ地となり、同地に中国人観光客が殺到した。

 だが、ブームは一過性だ。道観光局によると、中国人観光客そのものは増加しているが、ロケ地巡りは、すでに落ち着いたという。

 タイ人観光客の誘致をめぐり、ライバルもいる。その一つが千葉県だという。タイのテレビドラマ「ライジング・サン」のロケを誘致したことで、ドラマがヒットした昨年、成田山新勝寺などへのタイ人観光客が増えた。

 こうした他の自治体に負けず、一過性のブームに終わらせない-。佐賀県民は「おもてなし」に知恵を絞る。

 映画など3本全てのロケ地となった祐徳稲荷神社は現在、1日平均30人前後、多い日で約300人のタイ人が訪れる。境内には、タイ語で書かれた絵馬がずらりと並ぶ。神社では、日本の文化を体感してもらおうと、おみくじにタイ語を加える準備を進めている。

 権宮司の鍋島朝寿氏(48)は「東京や京都など過去にも来日経験がある人も多く、新たなスポットを求めて佐賀を訪れているようです。しっかりとおもてなしをすれば、また佐賀に来てくれるはず」と期待する。

 佐賀県は地味さが仇となり、今春、就職情報のマイナビによる調査で「一生行くことはなさそうな都道府県」の1位になった。「それならば」と、海外市場で観光地としての地位獲得を目指す。佐賀県FCの稲田好治氏(42)は「東京や京都に続く第3の観光地として選んでもらえるよう、知名度アップに努めたい」と語った。(高瀬真由子)