【北京=川越一】国連教育科学文化機関(ユネスコ)による「南京大虐殺文書」の登録は、中国に新たな対日歴史カードを与えることになった。南京事件に関する歴史資料にお墨付きを得たことで、習近平指導部が自国に都合良く解釈した歴史を「事実」として国内外に向けて吹聴し、反日宣伝に利用することは避けられない。
申請を主導したとされる江蘇省南京市の「南京大虐殺記念館」の朱成山館長は10日、国営新華社通信に対し、「これは平和の勝利だ。申請の成功は、我々の認識が人類の共同認識であることを示している」と語った。
中国外務省の華春瑩報道官は9日の定例記者会見で、申請の目的について「日本人を含む世界の人々に戦争の残酷性を深く認識させ、歴史を銘記し、平和を大切にし、ともに人類の尊厳を守ることだ」と説明していた。
しかし、中国側は南京事件を「日本の軍国主義が中国侵略戦争の期間に犯した重大な犯罪」と定義。4日付の中国紙、参考消息(電子版)は、2013年の安倍晋三首相の靖国神社参拝後、中国共産党が対抗措置として申請に向けた資料の選別を指示したとの見方を伝えており、反日活動の色合いは隠せない。
中国側の提出資料に関しては捏造(ねつぞう)などが発覚し、日本側は申請取り下げを要求していた。しかし、華報道官は9日の会見で、「日本が取った妨害や反対行為は、まさしく日本の歴史問題に関する誤った態度を証明している」と日本批判を展開していた。