日本のプロ野球で「40-40」の達成者は一人もいない。87年、西武の主砲・秋山幸二が43本塁打、38盗塁で肉薄したが、盗塁数が2つ足りずに栄冠を逃した。「ドラフト外」の入団だが、強打者・秋山の潜在能力を見いだした当時の根本陸夫監督の「眼力」も看過できない。プロ野球史に名を刻む王貞治や長嶋茂雄、三冠王・野村克也にしても、トリプルスリーをなし得ていない。ON時代、この記録に重みがなかったことや、大打者に盗塁が求められていなかったという事情が影響しているようだ。
「世界の盗塁王」の凄さ
野球は「失敗のスポーツ」といわれる。成功の陰には失敗の繰り返しがある。以前、ネット掲示板で考案されて話題になった「赤星式盗塁指標」というユニークな物差しがある。赤星とは元阪神の赤星憲広のこと。50メートル5秒6という俊足を武器にセ・リーグで5年連続盗塁王に輝いた。引退後、野球解説者となった赤星の「盗塁は成功数だけでなく、失敗数にも注目してほしい」という発言をもとに編み出されたユニークな評価法だ。例えば「100盗塁成功しても50盗塁死なら価値はゼロ」ということになる。
阪急の黄金時代を築いた一人、福本豊はシーズン100盗塁、通算1065盗塁を記録したが、盗塁成功率は8割に達していない。実はこの男にはもう一つの「武器」があった。野球専門誌「読む野球」(主婦の友社)のインタビューで「ぼくは盗塁、盗塁言われますけど、こんなチビでも200本以上ホームラン打ってる。これがいちばん自慢できる」などと答えている。「世界の盗塁王」は入団当初、非力で、外野にすら打球が飛ばなかった。パンチ力のなさを不断の努力で克服し、168センチの小柄な男が通算208本塁打という長打力を身につけたのである。