日光・芹沢地区は倒壊多発も犠牲者ゼロ 警官と住民の絆が「奇跡を呼ぶ」

 東日本豪雨で日光市芹沢地区は、国道121号に通じる市道がふさがれて一部住民が孤立状態となり、家屋が倒壊するなど土石流被害があったが、犠牲者はゼロだった。そこには、状況を的確に把握し、住民の自主避難を促した駐在所の警察官の姿があった。(豊嶋茉莉)

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 9月9日夜、雨が強まり、雷や風の音とともに地鳴りのような響きが今市署三依駐在所(同市中三依)にまで伝わってきていた。「どこか山抜け(土石流)したんだろうな」。同駐在所に勤務して3年目になる福田俊介巡査部長(36)は夜を徹して続々と寄せられる被害報告に対応していた。

 翌朝、芹沢地区の男性が駐在所を訪れ、「山が全部抜けちゃった。道もなくなっている」。すぐさま現場に駆けつけると、墨のような色に変わった沢、屋根がつぶれた家、土石流…。悲惨な状況が目に入った。

 日頃のつきあいが生きて自治会長らを通じて短時間で状況を把握。住民全員の無事を確認し、公民館へ自主避難させた。福田さんが避難させた障害者が他の人に声をかけて避難を促すなどして、土砂崩れ、家屋の倒壊が多発した同地区で一人の犠牲者も出さなかったのは「奇跡が奇跡を呼んだ」と振り返る。だが、福田さんは「地元の人が自分で身を守った。自分はやるべきことをやっただけ」。

 その後も避難住民の愚痴を聞き、地域の復旧に努めた。今市署も福田さんをサポートしたおかげで思うように活動ができた。

 福田さんが的確に状況を把握できたのは、地域との深い絆があった。遠隔地の駐在は通常、2年で交代するが、200人を超える住民が嘆願書を出し、引き留めた。「今回、3年いたから目が届いたところがあったと思う」。受け持つのは山あいの地域206世帯393人。日頃から各戸を訪問し、住民全員の名前や顔を把握。獅子舞など地域の行事にも参加し、警察官としての職務を超えた住民とのつきあいがある。

 改めて地域の温かさを感じる出来事もあった。家と倉庫を流された男性に「どうだい」と尋ねられた。ライフラインの復旧など現在の状況を答えると、「そっちじゃなくて、奥さん、もうすぐ子供が生まれるだろう」。大変な状況の住民がわがことのように妻の出産を心配してくれた。「思わず泣いてしまった。うれしさというか、さらに頑張っていかなくてはと思った」

 住民から「顔を見るだけでほっとする」と声をかけられた福田さん。目指すのは「伝説の駐在」。地域で語り継がれる警察官になるため、日々奔走している。

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