■いい仕事をするためには
職住が一体となった環境で、モノをつくって売り、生活していく。農家でも商店でも、かつてはそれが普通の営みだったが、いまは住居と仕事場、生産と流通は分離している。自分の親の仕事を知らない子供も多いときく。
本書の主人公である左藤玲朗は、九十九里浜に面した千葉県白子町に家族と犬と住み、自宅に隣接する工房で吹きガラスをつくっている。販売は信頼のおける少数の店とインターネット。最近では自宅での展示販売もはじめた。いまどき珍しい、職住一致のひとなのだ。
ここに行きつくまでに、さまざまな曲折があった。大学で柳宗悦らの民藝運動を知り、教師を経て、沖縄のガラス工房に入る。独立して丹波に工房を開くが、冬の寒さに耐えかねて白子に移転する。
職住一致を選んだのは、工房で一日中、火を燃やす必要があるため。また、陶器と違って、ガラスの技法や原料は多様なので、伝統や土地に縛られないモノづくりができるという理由も興味深い。
左藤の経歴と、そのなかで彼が何をつかみとっていったのか、そして、いま何を大事にしているのかが、自身の言葉で語られる。いい仕事をするためには手と同じぐらいに頭も動かさなければならない。左藤がブログに書く文章には、生活の実感と「仕事の苦しさ、すがすがしさ」があふれていると、著者の木村衣有子は書く。本書は左藤の語りを木村が聞き書きとして構成したものだ。