救急の現場が逼迫(ひっぱく)する背景には、高齢化のために救急患者が右肩上がりで伸びていることがある。20年前、同センターに救急搬送される患者で多かったのは20代と50代だったが、今は70代。搬送理由も「外傷」よりも「疾病」が増えた。
看取りに近い患者を、救命救急センターで受けることが本人にとっていいのか、という問題もある。浜辺部長は、「高い薬や高度な機材を使えば、管だらけで1~2週間は長生きするかもしれない。だが、苦しむ時間を延ばすより、もっと安らかな看取りもある」と言う。「生を継続させる『救急医療』と、生をうまく終わらせる『終末期医療』は方向性が逆だ。救急は安らかに看取るのは不得手です」
分秒を争う救急の現場で、年齢や状態で治療を分けるのは困難だ。「患者によって治療を手加減することは、救急が神様になることだ。僕らは神様ではない。目の前の患者に全身全霊をつぎ込んで救命できるようにしてほしい」
患者には、何ができるのか-。浜辺部長は「きちんと看取ってくれる医師を持っておくことが必要」という。「在宅医なら、本当に24時間カバーしてくれる医師。かかりつけ医で『明朝、私が行って死亡診断書を書くから』と言ってくれる医師でもいい。行きずりの救急医に看取ってもらうより、その方がいい。救命救急センターはこのままだと破綻する。若い患者を断らずに済むようベッドをやりくりしているが、今のままでは限界だ」