家族 第5部 記憶色あせても(6)完

できることが笑顔つくる 闘わない 一緒に生きていく

■退職が追い打ち

 26年1月、認知症の初期症状に戸惑っていた美幸に追い打ちをかけたのは、パート先の退職だった。

 約10年勤めた職場で、責任ある仕事も任されていた。おそらく、職場でも今までのような作業ができなくなっていたのだろう。ある日、帰宅した美幸がぽつりとこぼすように言った。「病気で仕事辞めることになってしまった」。俊夫は気落ちする妻に「もうあんたは定年。ゆっくりしてればいいの」。

 美幸が認知症と診断されてから、俊夫は本や市民講座で懸命に勉強を重ねた。「ぼけた人=何もできない人」というイメージはすぐに崩れた。美幸の初期症状は、軽い記憶障害と実行機能障害。物事の手順を自分で考えて作業することは難しくなっていたが、何もかもできなくなったわけではない。

 「今までできた100のうち、5ができなくなってるだけ。その5も指導してやればできる。認知症であってもできることはまだたくさんある」。軽作業に代えてもらえば、美幸は今も同じ職場で働けていたのではないか。俊夫には悔しい思いも残る。