谷崎由依のオススメ 月間MVC

美しい風景の裏にある虐殺の歴史 「光のノスタルジア」「真珠のボタン」

「光のノスタルジア」の1シーン=cAtacama Productions (Francia) Blinker Filmproducktion y WDR (Alemania), Cronomedia (Chile) 2010
「光のノスタルジア」の1シーン=cAtacama Productions (Francia) Blinker Filmproducktion y WDR (Alemania), Cronomedia (Chile) 2010

 チリという国は南北に長い。あらためて見ると、ほんとうに細長い。北端のアタカマ砂漠と南端のパタゴニア。極度に乾いた砂漠に建つ天文台から星々を眺め、太古の人々がカヌーで往来したきらめく海をカメラにおさめる。けれど砂漠に埋まり、海に沈んでいるのは多くの死体である。美しい自然を描く連作の、もうひとつのテーマは虐殺だ。

 天文台のふもとを訪れる女たち。青空を背景に砂地を掘る様子は貝拾いでもするようだが、探しているのはピノチェト政権下で殺された家族の遺骨だ。

 ピノチェト以前、ここには鉱物採掘のため雇われた労働者がいた。がらんとした土地に立つ十字架群。砂漠にあらわれたオブジェのようだが、そこに眠るのは酷使されて死んだ者たちだ。遺品を展示する小屋のなかで、天井からぶら下がったたくさんの錆(さ)びたスプーンが風に揺れ、互いにぶつかり、風鈴のような音色を奏で続ける。

 その以前にはインディオがいた。南の、パタゴニアの海辺にも。セルクナム族は裸ですごし、身体に絵を描いた。宇宙人のように不思議な出(い)で立(た)ちだった。入植者の持ち込んだ衣類に付いていた病原菌のせいで死んだ。生き残ったインディオたちも懸賞金をかけられた。男性ひとり殺して証拠の睾丸を持ち込めば賞金一パウンド。女性は乳房ひとつにつき一パウンド。子どもは少し値段が下がって耳十個で十シリング。

会員限定記事会員サービス詳細