理研CDBが語る

「不死」のES細胞…増え続け、生き続ける不思議

【理研CDBが語る】「不死」のES細胞…増え続け、生き続ける不思議
【理研CDBが語る】「不死」のES細胞…増え続け、生き続ける不思議
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 「不死」という言葉から何を連想するだろうか。

 ある人は不老不死という古代からの人類の夢を、またある人はドラキュラやゾンビのようなモンスターを思い浮かべるかもしれない。どちらにしても「不死はあり得ない異常なもの」という感覚があるのではないだろうか。生き物はいつか必ず寿命を迎える。このことは誰もが無意識に受け入れているはずだ。

 「いつか必ず死ぬ」という大原則は、私たちの体を構成する細胞のレベルで規定されている。細胞は自分のコピーを生み出す増殖能力を備え、例えば子供の成長過程や傷を治す過程で活発に増殖する。

 とはいえ、やみくもに増えるのではなく、細胞は必ずどこかで増殖をやめ、やがて死に至る。現在では、細胞の分裂回数があらかじめ遺伝プログラムによって決められていることや、時間経過に伴うDNAの傷の蓄積が細胞に寿命を与えていることが分かっている。

 一方、遺伝子異常の結果として寿命を規定する仕組みから逃れ、いつまでも増え続け、生き続けるようになった細胞が、がん細胞である。不可逆的な遺伝子変異に起因するため、通常元に戻ることはない。不死とはいえ、むしろ個体には病気や死をもたらす、まさにモンスターというべき異常な細胞である。

 実は、適切な環境さえ整えば、無限に増え続け、生き続けるヒトの「正常」な細胞が実在している。それが胚性幹細胞(ES細胞)だ。実に不思議な細胞で、ES細胞として無限に増殖できる一方で、皮膚や神経などの不死性をもたない別の細胞へ、いつでも変化することができる。

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