すぐ駆けつけられるように、電車通勤を車通勤に変えた。それでも、午後7時ごろに戻ると自宅は真っ暗。2階の子供部屋の隅にうずくまる美幸を「怖くないよ、怖くないよ」となだめ、明かりをつける。毎日がその繰り返しだった。
■「悪魔が…」
できるはずのことができなくなっていく不安。美幸も苦しんだが、不可解な行動をとる妻を見るのは、俊夫にとってもつらかった。
ある日、美幸が足をばたつかせているので理由を尋ねると「悪魔がさせている」という。たんすやクローゼットの中身を全て外に出してしまう美幸を思わず怒鳴りつけたこともある。「何やってんねや!」。妻の不安の理由が分からず、いらだった。すると、美幸は余計怒り出し、2階から階下に物を投げ落とした。
いつも自分の半歩後ろを控え目についてきた妻。夫を気遣い、夜泣きする子供を連れて夜中に散歩をしていたこともある。あまりに変わってしまった妻の姿に戸惑うばかりだった。
やがて、美幸は「もう生きてても仕方ない」と口にするようになる。妻の体を抱えて「大丈夫、大丈夫」と励ます俊夫にも先は見えなかった。「このまま2人でつぶれていくんかな…」