家族 第5部 記憶色あせても(5)

「病気だからしゃあない」 変わってしまった妻戸惑い

■異変の兆し

 周囲が異変に気付いたのは25年2月。「お義姉さん、おかしいんちゃう」。俊夫の父の葬儀で訪れた滋賀県彦根市で、妹がささやいた。誰もが忙しく働く中、美幸だけが部屋の隅で畳に座り込んでいた。

 当時の美幸は体重が減り続け、小柄とはいえ38キロにまで落ちていた。表情も暗い。糖尿病を疑った俊夫は同年4月、宇治市内の病院の糖尿内科へ美幸を連れて行く。鬱症状も出ていたが、異常は見つからず、9月には精神内科を受診。「アルツハイマーの疑いがある」と告げられた。

 娘3人が独立した後、穏やかに流れていたはずの夫婦の時間は、次第にきしみ始める。認知症の初期症状が表れたのだ。

 京都府城陽市に住む長女(40)の家に出掛けたはずが、帰ってくるなり「途中で道分からんようになって、いらいらして携帯捨てた」。長女の家にたどり着けず、携帯電話は高架から投げ捨てたという。買い物で小銭の計算ができなくなり、全て紙幣で支払いをするうち、財布にたまった小銭は6千円を超えていた。

 美幸の混乱を表すように、職場にいる俊夫の携帯が何度も鳴った。電話口で聞こえた「ガシャーン」という音に驚いて帰宅すると、バラバラになった掃除機と途方に暮れる美幸がいた。ゴミを捨てようとして分解するうちに、元に戻せなくなったのだという。

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