家族 第5部 記憶色あせても(5)

「病気だからしゃあない」 変わってしまった妻戸惑い

夫の中西俊夫さんと卓球を楽しむ美幸さん(左)=8日午後、京都府宇治市の府立洛南病院(志儀駒貴撮影)
夫の中西俊夫さんと卓球を楽しむ美幸さん(左)=8日午後、京都府宇治市の府立洛南病院(志儀駒貴撮影)

 卓球台の上を軽やかにボールがはねる。今月8日に京都府宇治市の府立洛南病院で開かれたテニス・卓球教室。卓球のペアを決めるためにトランプをひいた中西俊夫(63)がうれしそうに声をあげた。「おっ、一緒や。初めて一緒になったな」。隣に座る妻、美幸(62)の顔をのぞき込む。「あなたの方がうまいから僕ががんばらんとね」。美幸がはにかんだ。

 普段は物静かな美幸だが、試合での表情は真剣そのもの。俊夫の打ったボールが大きな弧を描いてアウトになると、他の参加者が「奥さんが怒ってるわ」と冷やかし、笑いが広がる。

 毎週火曜日に開かれる教室に参加しているのは、認知症の患者とその家族。「ここじゃ、誰が患者で誰が介護者か分からんでしょ」。俊夫も平成26年4月に「アルツハイマー型認知症」と告知された美幸を介護するが、テニスや卓球の腕前は妻の方が上だ。

 食品問屋の営業マンとして、スーパーなどに総菜を売り込む仕事をしてきた俊夫のモットーは「段取り八分」。準備を大切にする習慣は、病院の検査や趣味のサークル、患者・家族会の活動など、妻のスケジュールや体調の管理にも生きている。

 「私は彼女のことは何でも把握しているんです」。そんな言葉をさらりと口にできるのは、妻から信頼されているという実感があるからだ。

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