『虐殺器官』などの編集者で、トリビュートを企画した早川書房の塩沢快浩(よしひろ)さん(47)によると、伊藤さんは2年あまりの活動期間中、入退院を繰り返していた。作品が注目されたのは伊藤さんが死去した翌年に同書が文庫本になってから。
「その後は一貫して売れ続けています。例えば『虐殺器官』は、かなりハードな国際情勢を題材にしながら主人公はナイーブな内面を持った青年で、その彼が冷徹な紛争世界を見るというところが新しい。世界情勢は伊藤さんが亡くなってからますます悪化しているし、その作品は今の若い人たちが抱えている漠然とした不安に通じるのでは」と塩沢さん。
トリビュートには、伊藤さんが死去した後に世に出た作家も参加している。『南十字星(クルス・デル・スール)』を寄せた柴田勝家さん(27)は伊藤作品に出合ってSF作家を志し、昨年のハヤカワSFコンテスト大賞を受賞した期待の新人だ。