オリジナルの長編小説はほかに、芥川賞作家の円城塔さんが遺志を継いで完成させた『屍者(ししゃ)の帝国』のみ。今回この3作が一気にアニメ化され、10月2日からの「屍者の帝国」を皮切りに連続して公開される。
映画化ビジネスとしては、SF小説は読者が限られている上、世界各地を舞台にした設定など高度なアニメ技術が要求され、ハードルは高い。それでも挑戦するのは、伊藤さんが小説に込めた未来への思いが広がればと考えるからだ。
「同調圧力を象徴する優しすぎる世界と、それに立ち向かうカリスマを描いた『ハーモニー』は、時代を超えた普遍性を持っている。映画を見た人が自分に置き換えて、明日は変わるかもしれないという気分になればSFの効能かな」
出版界でも再評価の動きが相次いでいる。3月にエッセーなどを収めた『伊藤計劃記録』の文庫2冊を出した早川書房では8月、中堅や若手のSF作家8人による小説集『伊藤計劃トリビュート』を出版。今月には、作家の生涯を読み解くムック『蘇る伊藤計劃』も宝島社から刊行された。