父が昨年、施設に入ってから、暴力的な言動は消えた。「一緒にいて楽しい」と思える父に戻った。
症状は進行した。発する言葉の意味はほとんど理解できない。歩行や日常動作も満足にできず、食べ物を飲み込む「嚥下(えんげ)」機能も落ちている。脳のどこかにダメージがあるのか、筋力の低下が原因なのか。茜の目からみても、父の病は分からないことが多い。
医師は時に、無力だと思う。父と家族が一番つらかった時期に、病を治せず、話を十分に聞いてもらえなかった医師には「物足りなさ」を感じていた。それは、医師になった今の茜自身にもいえることだ。医療現場に出て、治療の余地がなかったり、患者家族と話をする時間がなかったりする場面に直面し、父を診察した医師の気持ちも分かるようになった。
「医師と患者家族という両方の視点を持つことで、板挟みに似た気持ちになることも多い」と茜。それでも「仕事にも介護にも、それをプラスに考えていかないといけないんですよね」と言い切った。
今の自分にできることは、何か。医師として、娘として、父と患者とどう向き合っていくか。救急外来患者に父の姿を重ねながら、自問する日々が続く。(敬称略)
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