家族 第5部 記憶色あせても(4)

「プラスに考える」 医師になった次女、父と患者重ね

若年性認知症患者の渋谷誉一郎さんの腕を取って歩く次女の茜さん=川崎市(蔵賢斗撮影)
若年性認知症患者の渋谷誉一郎さんの腕を取って歩く次女の茜さん=川崎市(蔵賢斗撮影)

 まどろむ間もなく、PHSのベルがなる。また救急外来だ。急いで夜間の搬送口へ駆けつける。渋谷茜(25)が神奈川県内の病院で研修医として働きはじめ、半年がたった。2カ月ごとに外科や消化器内科などをローテーションで経験し、月4、5回は当直勤務をこなす。

 茜の勤務する病院には精神科もあり、自ら通報して運ばれてくる精神疾患患者、認知症患者も多い。生命に直結するけがもなく、話が通じにくい患者は、冷たく扱われがちだ。

 「本人はつらくて来ているんだから、もう少し思いやりがあってもいいのに」。茜は複雑な気持ちになる。若年性認知症の父、誉一郎(57)の姿と、ダブらせてしまう。

母の味方に

 カメラに絵画と、自分に似て多趣味だった父とは、同級生と比べても、仲が良かった。茜が父の異変を感じたのは高校2年だった8年前。母の裕子(57)が旅行に行くため、茜は父に「私は鍵を持っていかないから早く帰ってね」と念を押して出掛けた。だが、父は母の旅行を忘れて外で飲酒し、鍵を持っていかなかった茜は父が帰宅する深夜まで家に入れなかった。

 甲信越地方にある大学の医学部へ入学が決まっても「結局、どこに行くんだ」と何度も聞かれた。家族で茜の卒業旅行に行った際、父が地図を全く読めなくなっていることに気づいた。