旬のなら遊び

猿沢池「采女祭」 美女は入水 龍は昇る?

猿沢池で行われる「采女祭」。中秋の名月の夜、管絃船が浮かぶ=昨年9月、奈良市
猿沢池で行われる「采女祭」。中秋の名月の夜、管絃船が浮かぶ=昨年9月、奈良市

 古都・奈良でお月見の名所として有名なのはやはり猿沢池だろう。毎年、中秋の名月の夜(今年は9月27日)に「采(うね)女(め)祭」が開かれ、優雅な管絃船が浮かぶ。興福寺五重塔とともに絵はがきでもおなじみだが、実はこの池、さまざまな伝説と謎に満ちている。同祭で花扇が手向けられ鎮魂される采女(女官)、さらに池に住んでいたという龍は…。

 奈良時代に造られ、「澄まず濁らず」といわれる不思議な猿沢池。五重塔を眺めながら周囲を歩くのもいいが、西北にある小さなお社に目を遣ろう。春日大社末社の采女神社で、采女祭は例祭なのだが、この社、何かおかしい。鳥居に背を向けてたっているのだ。そのわけは「ならの帝に仕えた采女が帝の寵愛が衰えたのを嘆き、入水した」(平安時代の『大和物語』)という能「采女」にもなった伝承。そんな池を見るにしのびないと社は後ろ向きになったという。

 「わぎもこが寝くたれ髪を猿沢の池の玉藻と見るぞ悲しき」という柿本人麻呂の伝承歌は采女(わぎもこ)の乱れた黒髪と玉藻が重なり、喪失感とともに妖艶な雰囲気も漂う。能「采女」では彼女の姿について長く艶やかな髪をカワセミの羽に、美しい唇を赤い果実に例えるなど、ベタ褒めだ。采女は地方豪族らが宮中に出仕させた美女といい、天皇らの身の回りの世話をした。近づけない存在だけに世の男性たちの憧れの的だったようだ。

会員限定記事会員サービス詳細