■既存ルートは限界、鉄道など兼ね備えた施設に
ゴールデンウイーク中の今年5月3日、関門橋につながる関門道の北九州市側で、乗用車やトラックなど8台が絡む事故が発生した。門司インターチェンジ(IC)と門司港IC間が正午すぎから5時間以上通行止めとなった。
夕方には、関門トンネルでも事故があり、通行止めになった。関門橋と関門トンネルがほぼ同時にストップした結果、周辺の至る所で渋滞が発生するという事態に陥った。
事故は相次ぐ。
8月末には、関門トンネル内でワンボックスカーがガードレールに衝突して横転、1人が死亡する事故が起きた。この影響で、門司港・門司IC間で上り線は約6時間半、下り線は約2時間通行止めとなり、本州と九州を結ぶ道路は関門橋だけという綱渡り状態が続いた。
8月25日に西日本を襲った台風15号では、早朝から関門橋が通行止めになり、自然災害へのもろさを露呈した。
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昭和33年に完成した関門国道トンネルは、全長3461メートル。自動車道と人道の2階建て構造で、自動車道の幅はわずかに7・5メートルしかなく、対面通行で大型トラック同士がすれ違うと、ギリギリの感覚だ。
完成からすでに57年が経過しており、海底トンネルであるゆえに海水の漏出で損傷が激しい。抜本的な漏水を阻止することは困難なため、20~22年度は1年間に約100日間、トンネル全体を止めて改修工事が行われた。本州と九州の大動脈の補修工事中、1日3万5千台とされる通行車両は、そのまま関門橋に流れていく。
この3カ年の大規模補修工事は、10年おきに実施する必要がある。年の3分の1近くが不通、という緊急事態が頻繁に起きているといえる。
費用も莫大だ。大規模補修工事費は3年間で計80億円。大規工事がない年でも、維持管理費だけで年6億円かかる。
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他のルートも寿命を迎えている。
戦時中の昭和17年に建設された関門鉄道トンネル(3・6キロ)は、すでに「喜寿」を越えた。ダイヤ上は上下線であるように見えるが、実は複線ではなく、独立した2本のトンネルにそれぞれ線路が走る構造だ。ほぼ毎日、正午から3時間程度片側のトンネルを閉鎖し、片側交互通行で運行されている。
トンネル内には毎日、600トンもの海水や地下水が漏出している。JR九州は4基のポンプで漏水を排出したうえで、保守点検を行う必要があるためだ。
関門国道トンネル、関門鉄道トンネルは経年劣化という同じ深刻な事情を抱えているのだ。
加えて関門鉄道トンネルは別の課題も抱える。関門海峡の船の航路の問題だ。
関門海峡は国交省の方針で平成40年までに、航行部分を現在の推進12メートルから14メートルまで浚渫(しゅんせつ)する。この工事で、大型船の航行が可能になり、貨物船の積載量が増やせるようになる。博多や神戸港に奪われていた客や貨物を、北九州、下関の港に取り戻すことができる。
ただ、関門鉄道トンネル上部から、海底まではわずか7メートルしかない。
海底をこれ以上浚渫した場合、トンネルへの漏水が増えたり、トンネル自体に損傷が出る危険性がある。
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下関北九州道路整備促進期成同盟会などが8月に国土交通省に提出した陳情書は、組織の性格上ではあるが、「鉄道」に触れていない。
関門鉄道トンネルが関門国道トンネルと同様、すでに耐久期限を迎えている以上、新たなルートは道路と鉄道を兼ね備えた施設にすることが望ましい。下関北九州道路の実現性は高くなる。
専門家も「国道と鉄道を合わせて、同じトンネル工法で走らせることは可能」と話す。道路と鉄道が手を結んだうえ、東日本大震災で教訓となった「リダンダンシー(二重性)」の観点から、電気、ガス、通信などの補完機能を加えれば、関門海峡地域の発展とともに国土強靱(きょうじん)化にもつながってくるはずだ。
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【用語解説】リダンダンシー
多重性の意味。震災などが起きた場合、道路や橋が崩壊する恐れがあることから、あらかじめ代替手段を確保・指定しておく必要がある。東日本大震災では、被災後に利用が制限された太平洋側の高速道路の代替えとして、日本海側の幹線道路網が物資の輸送ルートとして機能した。