安保改定の真実(8)完

岸信介の退陣 佐藤栄作との兄弟酒「ここで二人で死のう」 吉田茂と密かに決めた人事とは… 

 福田は翻意を促したが、岸の決意は固かった。

 6月16日未明、岸は東京・渋谷の私邸に赤城を呼んだ。

 岸「赤城君、自衛隊を出動させることはできないのかね」

 赤城「出せません。自衛隊を出動させれば、何が起きてもおかしくない。同胞同士で殺し合いになる可能性もあります。それが革命の導火線に利用されかねません」

 岸「武器を持たせず出動させるわけにはいかないのか?」

 赤城「武器なしの自衛隊では治安維持の点で警察より数段劣ります」

 岸は黙ってうなずいた。

× × ×

 6月16日午後、岸は臨時閣議でアイクの来日延期を決定した。これでデモが収束するかと思いきや、ますます気勢を上げた。

 翌17日、警視総監の小倉が官邸を訪れ、「連日のデモ規制で警察官は疲れ切っており、官邸の安全確保に自信が持てません。他の場所にお移りください」と求めたが、岸はこう答えた。

 「ここが危ないというならどこが安全だというのか。官邸は首相の本丸だ。本丸で討ち死にするなら男子の本懐じゃないか」

 新安保条約自然承認を数時間後に控えた18日夜、岸は首相執務室で実弟の佐藤と向き合っていた。

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