「あの時は授業を抜け出してサボったよな」「お前も全然変わらないな」。5人の男性が思い出話に花を咲かせる。傍らで東京都内に住む渋谷裕子(57)が心配そうに見守る。
今年のお盆。若年性認知症の夫、誉一郎(57)が入居する施設から一時、自宅に戻った。自宅に泊まるのは正月以来。誉一郎の高校時代の旧友4人が駆けつけてくれた。
誉一郎は旧友との会話に参加しようと盛んに話をするが、認知症が進んだその言葉は、裕子でも理解するのは難しい。だが、旧友は「相変わらずユーモアのあるトークだ」と温かく受け止めてくれた。
旧友を送り出した翌日、裕子が前日の写真を誉一郎に見せた。「懐かしいなあ。全然会ってない。連絡とって、いっぺん、会おうかなあ」
苦しみから解放
誉一郎は平成21年秋に若年性認知症と診断された。丸4年の自宅療養を経て、25年10月に認知症専門の病院に入院。26年6月には川崎市内の介護付き老人ホームに転院した。裕子は毎週末を、病院や施設で誉一郎と過ごした。
入院当初、誉一郎の荒れようはひどかった。「こんなひどい仕打ちをするとは思わなかった」「家に帰したくないなら来るな」。裕子に容赦ない言葉を浴びせた。テレビの特集で、配偶者につきっきりで献身的に介護をする認知症の家族を見ると「なぜ、自分にはできなかったのか」と落ち込んだ。