産経抄

安倍首相の無投票再選批判はお門違いも甚だしい… 9月10日

 昨年7月に92歳で亡くなった大久保房男さんは、「純文学の鬼」と呼ばれた編集者だった。文章の「てにをは」にまで細かい注文をつけられ、憤慨した作家は数知れない。

 ▼「看板を大久保房男を祝う会と書くべきを、本心が出てしまって、つい呪う会と書いてしまい…」。エッセー集を出版した大久保さんを祝う会での、遠藤周作さんの挨拶である。ネと口へんの違いで、まったく逆の意味になる。狐狸庵(こりあん)先生らしいユーモアに、会場は爆笑に包まれた(『昭和の名編集長物語』塩澤実信(みのぶ)著)。

 ▼自民党総裁選は、安倍晋三首相(党総裁)の無投票再選に終わった。とはいえ、本心から祝福している議員ばかりではあるまい。安全保障関連法案の必要性を、なぜもっと上手に国民に説明しないのか。呪うほどではなくても、疑問を持つ議員もいるはずだ。

 ▼総裁選に名乗りを上げて、首相に論戦を挑んでほしかった。例によって「安倍嫌い」のメディアは、「異論を封じた」首相サイドの強権ぶりを責め立てる。お門違いもはなはだしい。権力闘争に敗れれば、死刑が待っているどこかの国とは違う。せいぜい冷や飯を食わされる程度の報復を恐れて、沈黙を守った議員たちのへっぴり腰を、批判すべきだろう。

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