海道東征を聴く

「海ゆかば」魂に届ける 信時作品と戦争(上)

 真珠湾特別攻撃隊の戦死、山本五十六戦死の大本営発表…。深刻な戦況を伝える放送でも流されるようになった。当初の儀礼歌とは、しだいに異なる使われ方となっていく。

 「戦争を経験された方の心の内で、悲しい記憶と結びついているのではないでしょうか」

 信時の長女、熊谷はる子さん(89)は言う。「父は開戦前に依頼された時と違う使われ方をして驚いたと思います。ただ、そのことに対して家族の前で不平を言うようなこともございませんでした」

 信時家では戦時中、4人兄弟全員が結核になった。中でもはる子さんの3歳年上の長男の容体が悪化。「家の近くにも焼夷弾が落ちてきたり、兄のために食糧を探すのに苦労したり。戦後、私たちは薬で治りましたが、兄には間に合いませんでした」

 今、改めて「海ゆかば」を思うとき、「美しい曲」と感じる。しかし、「決して気軽に口ずさめません。戦争のつらい思い出や、爆撃の音がよみがえってしまうのです」と話す。

 「20年、30年たったら、ようやくこの曲も違った気持ちで聴けるのかもしれませんね…」。静かに、複雑な胸中を打ち明けた。