その後電話でもやり取りをして、青森から列車を乗り継いで約5時間、あつみ温泉に「一目惚れの相手」を迎えにいった。しかし、「こけしブーム」で、受注から制作まで約半年もかかるという。この日は展示してあったこけしから、好みのものを探し出して制作を依頼しただけ。泣く泣く手ぶらで5時間の道のりを引き返した。
自宅には30体以上
こうして、かわいいと思うこけしを見つけると、休日には工人の元へと買いに訪れ、自宅にはこけしがどんどん増えていった。工人との触れあいも増すにつれて「東北各地に親戚がいるような感覚になった」という。工人たちは赤の他人である自分をわが子のように招き入れ、海の幸や山の幸を振る舞ってくれた。
「『今年の夏は暑いね』から始まって、『最近は腰が痛くて病院に通ってるんだ』など、こけしに関係ない話ばかり」だったが、「地域放送に携わる立場として、一人の東北人として、仕事以外の場でその土地に住む人と交われて、本当にうれしかった」。今では集めたこけしも30体以上に上る。
こけし収集は仕事面でも生かされる。
こけし行脚をする中で見えてきたのは、同年代の女性たちが、同様にこけしを求めて東北の温泉地に殺到している姿だった。
「展示即売会などでは、都会の女性がバーゲン会場のように殺到していて熱気がある。これを番組にしたら面白いかも」
平成25年2月、東北地方6県で毎週金曜日の午後7時半から放送されている「クローズアップ東北」で、企画した番組「ワタシがこけしに恋した訳」が放送された。若い都会の女性がこけしを求める社会的背景を取材した番組は、大きな反響を呼び、全国放送を求める声も寄せられたという。
26年3月、青森放送局から水戸放送局へと異動することが決まった。青森の職場の仲間たちが、贈ってくれた送別の品は当然、大きなこけしだった。