朝鮮半島情勢

交渉決裂回避を予見させた北朝鮮「3つのシグナル」

 【ソウル=藤本欣也】北朝鮮は今回、南北高官協議が難航しても交渉を決裂させず、譲歩をしてでも「政治宣伝放送の中止」という成果を得ようとした。北朝鮮側のこうした姿勢は協議に臨む前からシグナルとして注目されていた。

 まず、北朝鮮は準戦時状態を前線に布告した21日、強硬姿勢を示す裏で高官協議の開催を韓国に申し入れていた。次に、韓国側が金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の最側近、黄炳瑞(ファン・ビョンソ)朝鮮人民軍総政治局長の出席を要求するとそれを飲んだ。協議場所も、軍事境界線がある板門店の北朝鮮施設「統一閣」ではなく、アウェーとなる韓国側の「平和の家」とする韓国の提案も受け入れた。

 また、北朝鮮は高官協議の開催を発表する際、韓国を「傀儡(かいらい)」「南朝鮮」と呼ばずに「大韓民国」と正式な国名で呼称した。親北政策を取った盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権以来という。

 異例ずくめの対応の背景には、「政治宣伝放送の中止」という成果獲得のほかに、金正恩体制自身、軍事衝突への発展だけは避けたかった事情があるようだ。

 報道や北朝鮮専門家の話などを総合すると、北朝鮮への抑止力となったのは、(1)想定以上だった韓国の強硬姿勢(2)韓国軍と共同対処する姿勢を明確にした米軍の存在(3)来月3日に抗日戦争勝利記念事業の開催をひかえた中国の圧力-などだったとみられている。

 北朝鮮は振り上げた拳を下ろすことができた形で、今後、合意事項を実際に履行するかは不透明だ。

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