「百聞は一見に如(し)かず」という慣用句があるが、では目が見えなかったらどうなのか。そもそも視覚が不自由な人は、どのように世界をとらえているのだろう。そんな疑問に答えてくれる。インタビューなどを通して、見ることの意味を問い直す一冊。
4月に出版され、5刷2万2000部と好調だ。「類書がなく、文章にリズム感があるのがいい」と担当の同社新書編集部の小松現さん。
著者は東京工業大学リベラルアーツセンターの准教授で美学者。といっても論文や研究書のような堅い文章ではなく、とても読みやすい。ふと漏らした相手の言葉を丁寧に拾い集め、鋭い分析を試みる。たとえば、東京都内の大岡山駅から大学へ坂道を歩いていたときのこと。「大岡山はやっぱり山で、いまその斜面をおりているんですね」。目の見えない人が坂道を「山の斜面」と受け止めたことを記している。風景が見える人と見えない人では、感じ方が大きく異なる。著者は〈情報が少ないからこそ、それを解釈することによって、見える人では持ち得ないような空間が、頭の中に作り出されました〉と解説。本書を読み終えると、目の前の風景が違って見えてくるはず。一読に如かず。(光文社新書・760円+税)
(渋沢和彦)