空のあなたへ 日航機墜落30年

(下)先妻を失った男性 空からバトンタッチを受けた妻と一緒に安心な街づくりに尽力 

【空のあなたへ 日航機墜落30年(下)】先妻を失った男性 空からバトンタッチを受けた妻と一緒に安心な街づくりに尽力 
【空のあなたへ 日航機墜落30年(下)】先妻を失った男性 空からバトンタッチを受けた妻と一緒に安心な街づくりに尽力 
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「30年前の事故は悲惨だった。だけど今、その経験は自分の中で前向きに生かされている」

東京都足立区の工藤康浩さん(55)は、妻の理佳子さん(53)とともに、地元で安心や安全が根付いた街づくりに取り組み始めている。精神的な安心と物理的な安全が保たれた社会を目指して、地域住民とともに悩み考えるワークショップを開催し、行政に提言もするという。

30年前の夏、安心安全がないがしろにされた日航機墜落事故で、先妻の由美さん=当時(24)=を失った。わずか結婚半年。神戸市の実家に初めて里帰りする途中だった。

「墜落までの32分間を一人で苦しませたことが、かわいそうでならない」

事故3日目に対面した遺体はきれいで、ほぼ生前のまま。「早く救助が来ていれば…」。顔を覆う布の上から、そっと口づけをして、最後のお別れをした。

約1年後、由美さんの母に「心のよりどころ」にしてもらおうと、遺骨を返した。義父母から「君はまだ若いから」と言われた。しばらくすると、便りを出しても返事が来なくなった。

縁を切った義父母の愛情「再起を後押し」

「自分にはやりたいことがある」。その後は悲しみを振り払うかのように建築設計の仕事に没頭した。一人の自宅に帰るのが嫌で、夜は繁華街をさまよっては酒を飲んだ。由美さんと話したくて霊媒師に口寄せを頼んだこともあった。

立ち直ろうとする気持ちと消えない喪失感。そのはざまで揺れ動いた。事故後5年、そんな自分に寄り添ってくれる女性に出会った。理佳子さんだ。

自分が背負う運命の重さを見極めてほしい-。結婚を意識するようになり、事故現場の御巣鷹の尾根を一緒に登った。号泣しながら山を登り続ける理佳子さんを見て再婚を決意した。

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